設備保全で大切な「予防保全」とは?事後対応との違いを実務目線で解説

設備は、止まるときほど急に止まります。朝は普通に動いていたポンプが午後に異音を出す。昨日まで問題なかった受電設備で警報が出る。現場では、こういうことが本当に起きます。

ただ、後から振り返ると、前兆がまったくなかったケースばかりではありません。温度が少し高かった。音が変わっていた。点検記録の数値がじわじわ悪くなっていた。更新推奨年数を超えていた。小さな変化を拾えていれば、止め方を選べたかもしれない。私が設備管理会社の技術営業として現場を回っていた頃、そう感じる場面は何度もありました。

この記事では、設備保全の中でもよく出てくる「予防保全」と「事後保全」の違いを、実務に寄せて整理します。難しい理論よりも、設備担当者や発注担当者が判断しやすいように、どの設備にどちらを使うべきかまで落とし込みます。

設備保全は「壊れたら直す」だけではない

設備保全という言葉を聞くと、修理や部品交換を思い浮かべる人が多いと思います。もちろん、それも保全の一部です。ただ、実務での設備保全はもっと広い活動です。

日本プラントメンテナンス協会は、設備管理を設備のライフサイクル全体で機能を保つ活動として整理しています。設計、調達、運転、検査、整備、廃棄までを見て、設備を効率よく使うための管理です。詳しくは同協会の設備管理とはが参考になります。

現場でいう設備保全には、だいたい次のような作業が含まれます。

  • 日常点検で音、振動、温度、におい、漏れを見る
  • 定期点検で絶縁抵抗、電流値、圧力、流量などを測る
  • 清掃、給油、増し締め、消耗品交換を行う
  • 劣化した部品を補修・交換する
  • 不具合が起きた原因を調べ、再発を防ぐ
  • 点検記録や修理履歴を残し、次の計画に使う
  • 老朽化した設備の更新時期を判断する

「修理」だけを見ていると、設備が止まってから動くことになります。設備保全をきちんと回すなら、止まる前に変化を拾う視点が欠かせません。

事後保全とは何か

事後保全は、設備に不具合や故障が起きてから対応する保全方式です。壊れた部品を交換する。停止した設備を復旧する。異常が出た後に原因を調べる。かなり身近なやり方です。

事後保全が悪いわけではありません。実務では、事後保全で十分な設備もあります。たとえば、止まっても業務影響が小さい設備、予備機がある設備、交換部品が安くてすぐ手に入る設備です。照明器具の一部や、予備を持っている小型機器などは、無理に細かい予防保全を組むより、故障後に交換した方が合理的な場合があります。

ただし、事後保全には弱点があります。故障のタイミングを選べません。夜間、繁忙期、出荷直前、停電できない日に起きることもあります。復旧に必要な部品が欠品していれば、数日止まるかもしれません。担当者が不在なら、判断も遅れます。

事後保全が向く設備を整理すると、次のようになります。

判断項目事後保全でもよい設備の目安
停止影響一部停止で済み、売上や安全に大きく響かない
復旧時間数分から数時間で戻せる
部品調達汎用品で、在庫や代替品がある
安全面故障しても感電、火災、落下、漏えいなどにつながりにくい
費用予防的に交換するより、壊れてから直す方が明らかに安い

逆に、この表に当てはまらない設備を事後保全だけで見るのは危険です。生産ラインの主設備、受変電設備、空調や給排水の主要設備、インフラ系設備などは、止まった後の影響が広がりやすい。ここを「壊れたら考える」にしてしまうと、復旧費よりも停止損失の方が大きくなります。

予防保全とは何か

予防保全は、故障や性能低下が表面化する前に、点検、診断、部品交換、補修、更新を計画する考え方です。簡単に言えば、壊れる前に手を打つ保全です。

予防保全には、大きく分けて時間を基準にする方法と、状態を基準にする方法があります。

種類考え方
時間基準保全年数、月数、運転時間、使用回数で点検や交換を決める6か月ごとの点検、5年ごとの部品交換、メーカー推奨年数による更新
状態基準保全測定値や劣化状態を見て対応時期を決める振動値、温度、絶縁抵抗、油分析、劣化診断の結果で判断
予知・予兆保全センサーやデータ分析で異常の兆しを早めにつかむ常時監視、電流波形の変化、温度上昇の傾向管理

時間基準保全は始めやすい反面、まだ使える部品を交換することがあります。逆に、使用環境が厳しい設備では、決めた周期より早く劣化することもあります。

状態基準保全は、設備の実際の状態に合わせやすい方法です。高圧ケーブルの劣化診断、絶縁油の分析、回転機の振動測定などはこの考え方に近いです。ただ、測定機器や診断ノウハウが必要になります。記録をためて傾向を見る力も必要です。

私の感覚では、最初から高度な予知保全を狙うより、まずは「時間基準で点検し、測れるものは記録する」くらいが現実的です。記録が残れば、あとから状態基準に寄せられます。いきなり完璧な仕組みを作ろうとすると、現場が続きません。

予防保全と事後保全の違い

予防保全と事後保全の違いは、単に「前にやるか、後にやるか」だけではありません。現場の負担、停止時間、費用の見え方、安全面まで変わります。

比較項目予防保全事後保全
対応のタイミング不具合が出る前に対応する不具合や停止後に対応する
停止時間計画停止にしやすい突発停止になりやすい
費用点検・診断・交換費が先に出る平常時の費用は抑えやすい
リスク故障前にリスクを下げる故障時の影響を受けやすい
向く設備重要設備、長納期部品、安全リスクのある設備低リスク設備、代替可能な設備、安価な設備
管理の難しさ台帳、記録、計画が必要管理は簡単だが、復旧対応に追われやすい

予防保全の良さは、設備を止める日を選びやすいことです。休日、夜間、閑散期、計画停電日に合わせられます。部品も事前に手配できます。作業者の人数や手順も組めます。緊急対応より、ずっと落ち着いて進められます。

事後保全の良さは、普段の保全費を抑えやすいことです。すべての設備に予防保全をかけると、費用も手間も膨らみます。止まっても困らない設備まで細かく管理すると、現場の時間を食います。

つまり、予防保全と事後保全は勝ち負けではありません。設備の重要度で使い分けるものです。

なぜ予防保全が重視されるのか

予防保全が重視される背景には、設備の老朽化、停止損失の増加、人材不足があります。

国土交通省は、インフラメンテナンスについて、施設に不具合が生じてから対策する事後保全から、不具合が生じる前に対策する予防保全への転換を示しています。国土交通白書2020では、国土交通省所管インフラを対象にした推計として、2048年度の1年当たり費用が事後保全の場合に2018年度の約2.4倍となる一方、予防保全では事後保全と比べて約5割減り、30年間の累計でも約3割減る見込みと説明しています。

これは橋梁や道路などの社会インフラの話ですが、工場やビル、商業施設の設備にも通じます。壊れてから大きく直すより、軽い劣化の段階で手を入れた方が、結果的に安く済む場面は多いです。

予防保全で減らせるものは、修理費だけではありません。

  • 急な停止による生産ロス
  • 顧客や利用者への影響
  • 夜間や休日の緊急手配
  • 復旧作業中の安全リスク
  • 原因調査に追われる時間
  • 担当者しか分からない属人的な判断
  • 設備更新の先送りによる大型トラブル

設備が止まった後の現場は、どうしても判断が荒くなります。「まず動かす」が優先されるからです。もちろん復旧は必要です。ただ、毎回それを繰り返していると、根本原因に手が入りません。予防保全は、現場を落ち着かせるための仕組みでもあります。

電気設備では「保守不備」と「自然劣化」を分けて見る

電気設備の保全では、保守不備という言葉をよく見ます。ただ、この言葉を「点検をサボった」とだけ受け止めると、少し雑です。

経済産業省の原因分類表では、保守不備の中に「保守不完全」と「自然劣化」が整理されています。保守不完全は、巡視、点検、手入れなどが不十分だったもの。自然劣化は、製作、施工、保守に特別な欠陥がなくても、材料や機構に劣化が生じたものです。

この区別は実務でかなり大事です。点検をしていても、設備は年数とともに劣化します。屋外設置なら雨、風、湿気、塩害、温度変化を受けます。ケーブル、開閉器、変圧器、遮断器、保護継電器などは、見た目だけでは判断しにくい劣化もあります。

NITEは電気工作物の事故情報や注意喚起資料を公開しています。こうした資料を見ると、電気設備では「まだ動いているから大丈夫」と言い切れないことが分かります。電気は止まったときの影響が大きく、事故になれば周辺停電や感電、火災につながることもあります。

設備担当者が見るべきなのは、点検結果の丸バツだけではありません。

  • 前回より数値が悪くなっていないか
  • メーカーの更新推奨年数を超えていないか
  • 同じ型式の設備で事故や注意喚起が出ていないか
  • 使用環境が設計時より厳しくなっていないか
  • 予備品が今でも手に入るか
  • 停止して交換できる時期を確保できるか

電気設備は、壊れてから交換しようとしても、すぐに止められないことがあります。停電調整、関係先への連絡、仮設対応、作業者の確保。段取りが多い。だからこそ、予防保全との相性がよい設備です。

全部を予防保全にする必要はない

予防保全が大切だからといって、すべての設備を同じレベルで管理する必要はありません。むしろ、全部を細かく見ようとすると続きません。人も時間も足りなくなります。

最初にやるべきなのは、設備の重要度を分けることです。

区分設備の考え方保全方式の目安
Aランク止まると安全、法令、売上、供給に大きく響く予防保全を基本にする
Bランク止まると困るが、短時間なら代替できる予防保全と事後保全を組み合わせる
Cランク止まっても影響が小さく、すぐ交換できる事後保全でもよい

Aランクに入りやすいのは、受変電設備、主要ポンプ、空調の中核設備、消防設備、生産ラインの主装置、排水処理設備、通信や監視に関わる設備などです。施設の種類によって変わりますが、「止まったときに誰が困るか」を書き出すと見えやすくなります。

Cランクまで重く管理しないことも、保全設計の一部です。現場の限られた時間は、止めてはいけない設備に使うべきです。

予防保全を始めるときの手順

予防保全は、難しいシステムを入れなくても始められます。最初から大きな仕組みにしなくていいです。紙でも表計算ソフトでも、まず記録を残すこと。ここが出発点です。

進め方は、次の順番が現実的です。

  • 設備台帳を作り、設備名、型式、設置年、メーカー、設置場所を整理する
  • 止まったときの影響でA、B、Cに分ける
  • Aランク設備から点検項目と点検周期を決める
  • 過去の故障履歴、修理費、停止時間を分かる範囲で入れる
  • メーカー推奨年数や法定点検の有無を確認する
  • 点検結果を数値と写真で残す
  • 半年から1年ごとに周期と項目を見直す

点検記録で避けたいのは、「異常なし」だけで終わる記録です。もちろん異常なしは大事です。ただ、温度、圧力、電流、絶縁抵抗、振動、運転時間など、数字で残せるものは数字で残した方が後で使えます。

たとえば、同じ「異常なし」でも、絶縁抵抗が毎年少しずつ下がっているなら話は変わります。温度が去年より高いなら、負荷や冷却状態を見る必要があります。音が気になるなら、動画や音声を残す手もあります。未来の自分を助ける記録です。

外部専門会社に相談した方がよい場面

自社だけで予防保全を組める設備もあります。日常点検、清掃、消耗品交換、簡単な記録管理は、社内で回した方が早いことも多いです。

ただ、専門会社に相談した方がよい場面もあります。

  • 高圧・特別高圧の電気設備を扱う
  • 設備停止の影響が大きく、点検計画を慎重に組む必要がある
  • ケーブル、変圧器、遮断器、保護リレーなど専門診断が必要
  • 老朽化設備の更新時期を判断したい
  • 再生可能エネルギー設備や蓄電池など、社内に知見が少ない
  • 事故時の原因調査や復旧計画まで見てほしい

電力・社会インフラ設備のように専門領域が広い場合は、対応範囲を事前に確認しておくと判断しやすくなります。たとえば株式会社T.D.Sのように電気設備からインフラ設備まで扱う専門会社であれば、点検や診断だけでなく、更新、補修、研修まで含めて相談できるかを見ておくとよいです。

外部に丸投げするという意味ではありません。社内で日常点検を行い、専門会社で定期診断や更新判断を補う。この分担が現実的です。現場の小さな違和感は社内の人が一番気づきます。専門会社は、その違和感を技術的に確認する役割です。

安全面から見た予防保全

設備保全は、稼働率や費用だけの話ではありません。安全にも直結します。

厚生労働省の労働災害に関する説明では、労働災害は業務が原因で労働者が負傷したり病気になったりすることとされています。設備の不具合は、作業者のケガにつながることがあります。漏電、感電、回転部への巻き込まれ、高温部への接触、油漏れによる転倒、圧力機器の破損。どれも現場では現実のリスクです。

事後対応では、復旧を急ぐあまり、普段より危ない作業になりやすいです。夜間に人を集める。暗い場所で応急処置をする。十分な足場や停止時間を取れない。焦りも出ます。

予防保全では、作業日、停止範囲、必要資格、保護具、立会者、復旧確認まで事前に決められます。安全に作業しやすい。これは大きいです。設備を守る話であり、人を守る話でもあります。

予防保全で失敗しやすいパターン

予防保全を始めても、うまく続かない会社があります。原因はだいたい似ています。

  • 点検項目を増やしすぎて、現場が記録係になってしまう
  • 点検結果を残すだけで、誰も見返していない
  • メーカー推奨年数を写しただけで、使用環境を見ていない
  • 更新費を先送りし続け、結局トラブル後に高くつく
  • 設備ごとの重要度を分けず、全部同じ周期にしている
  • 担当者の経験だけに頼り、退職や異動で分からなくなる

特に多いのは、記録しているのに使っていないケースです。点検表はある。ファイルもある。でも、傾向を見ていない。これでは予防保全になりません。

記録は、次の判断に使って初めて意味があります。来年も同じ周期でよいのか。部品交換を前倒しするのか。そろそろ更新予算を取るのか。外部診断を入れるのか。そこまで決めて、保全の記録になります。

実務で使える判断基準

予防保全にするか、事後保全でよいか迷ったら、私は次の順番で見ます。

1つ目は、人に危険が及ぶか。感電、火災、爆発、漏えい、落下、巻き込まれにつながる設備は、費用より先に安全を見ます。

2つ目は、止まったときの影響範囲です。自社だけで済むのか、顧客や周辺施設、公共インフラまで響くのか。影響が外に出る設備は、予防保全の優先度が上がります。

3つ目は、復旧にかかる時間です。部品が即納なのか、数週間待ちなのか。作業に停電や断水が必要なのか。長納期部品がある設備は、壊れてからでは遅いです。

4つ目は、劣化の見つけやすさです。目視で分かる劣化もあれば、測定しないと分からない劣化もあります。電気設備や回転機の内部劣化は、見た目だけでは判断しにくい。診断を入れる価値があります。

5つ目は、代替手段です。予備機に切り替えられるなら事後保全でも耐えられる場合があります。代替できないなら、止まる前に動くべきです。

この5つを見れば、保全方式の方向性はかなり決めやすくなります。

まとめ

予防保全は、設備を壊さない魔法ではありません。どれだけ計画しても、突発故障は起きます。けれど、起きる確率を下げたり、止めるタイミングを選んだり、復旧の混乱を減らしたりはできます。

事後保全にも使いどころがあります。止まっても影響が小さく、すぐ直せる設備まで重く管理する必要はありません。現場に必要なのは、予防保全か事後保全かを設備ごとに選ぶことです。

まずは設備台帳を作る。重要度を分ける。Aランク設備だけでも点検記録を数字で残す。半年後に見返す。これだけでも、保全の質は変わります。

設備は黙って劣化します。だから、こちら側で気づける仕組みを作っておく。予防保全の出発点は、そこです。

Last Updated on 2026年5月7日 by watado